植物において全く明らかにされていない、リボソームRNA の合成制御機構

icon 背景とこれまでの研究成果

 リボソームRNA (rRNA) の合成反応は、細胞増殖や癌化などと密接に関連しているため、生命の根幹をなす非常に重要な反応であると言えます。 そのため、真核生物では、菌類や動物を中心に、rRNA 合成制御についての研究が活発に進められています。 その結果、rRNA合成を担うRNA ポリメラーゼI (Pol I)に加えて、Pol Iと協調的に機能する転写因子群(図1)や、それを制御するシグナル経路など、rRNA合成についての詳細な調節機構が明らかになっています。 しかし一方で、真核生物の内、“植物”におけるrRNA 合成に関わる因子は元より、その制御機構については、その重要性に関わらず殆ど明らかになっていません(図1)。



図1.ポリメラーゼTと機能する基本転写因子・転写調節因子群

icon 植物で初めて同定された rRNA 合成に関与する基本転写因子 pBrp

 私は、植物に特異的に見出されるTFIIB型の基本転写因子であるpBrp (plant specific TFIIB-related protein) に着目して研究を行ってきました。 その結果、pBrpは、Pol Iの基本転写因子であり、rRNA合成を正に制御する事を明らかにしました(図1)。 本成果は、植物において、rRNA 合成に関わる因子を初めて同定したものであると共に、今まで酵母や動物を用いた解析を元に考えられていた“Pol Iと機能する TFIIB 型基本転写は存在しない“と言う教科書的な概念を覆すユニークな知見を発信する事に成功しました [Imamura et al., (2008) EMBO J.]。  また、真核生物の祖先は、現存の古細菌の様に、1種類のRNAポリメラーゼとTFIIB型の基本転写因子を用いて、rRNAを合成していたと考えられています。 このことは、初期の真核生物は当初 TFIIB型の基本転写因子を有していたが、その後の進化の過程において、植物以外(酵母や動物)では脱落し、他の型の基本転写因子に置き換わった事を意味しています(図2)。 つまり、pBrpの機能の解明により、“真核生物において不明であったrRNA合成装置の進化の道筋”を初めて明らかにする事に成功したのです。



図2.植物で明らかにされたrRNA合成酵素の進化の道筋



icon 今後について

 前述したように、植物におけるrRNA合成制御機構の研究は始まったばかりです。 今後は、核内ばかりでなく、オルガネラにおいてrRNA合成に関わる因子の機能解析も進め、それらによる合成が、どのように統御的にコントロールされているかについて明らかにしていきたいと考えています。 本研究は、基礎科学的に非常に重要ですが、rRNA の合成は、細胞の増殖と密接に関連しているため、rRNA 合成制御の解明は、植物生長の理解に繋がり、日本を含めた世界規模での食糧問題や、バイオ燃料の原料となる多収性植物の作出などにおいても非常に有益な情報となることが期待できます。