基盤的研究:軽油生産能を有する単細胞緑藻の転写因子大量発現による生産性向上

icon 概要

 Pseudococcomyxa ellipsoideaは、細胞内で軽油相当の直鎖状炭化水素と脂質を生産します。しかし、P. ellipsoideaによる軽油生産は、約1週間の栄養増殖状態では少なく(藻体乾燥重量の10%)、窒素飢餓状態になり増殖停止に至る次の1週間で顕著に増大します(30%)。そのため、連続的な培養での軽油生産が困難であり、これが実用化への大きな障害となっています。よって、本研究では、増殖時においても軽油生産を高レベルで行うP. ellipsoideaを創出し、P. ellipsoideaを用いた軽油生産期間の半減による生産性の2倍の向上を達成する事を目的にしています。


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icon 背景

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 窒素飢餓に伴う代謝変化は、多くの真核藻類や植物で見られます。特に、真核藻類において、脂質などの合成が窒素飢餓で誘導される事例がいくつか知られており、P. ellipsoideaと同様、還元力および過剰炭素のシンクとしての役割を持っていると思われています。 この真核藻類および植物における窒素飢餓については、現象として非常に重要であるにも関わらず、そのメカニズムについてはほとんど知られていませんでした。しかし、当研究室助教今村らは、P. ellipsoideaと同様に真核微細藻類である紅藻Cyanidioscyzon merolaeを用いた研究により、植物で今まで不明であった、窒素同化系を正に制御する転写因子の同定に初めて成功しています [Imamura et al, PNAS (2009)]。 その転写因子CmMYB1は、MYB型転写因子に分類される転写因子であり、窒素飢餓条件特異的に窒素同化に関わる遺伝子群の発現に関与します。興味深い事に、CmMYB1遺伝子破壊株において、CmMYB1を一過的に発現させると、窒素充足条件にも関わらず、CmMYB1が機能、その結果、窒素同化に関わる遺伝子の発現が上昇します。


icon 方法

 前述のようにP. ellipsoideaは、窒素飢餓に陥ったとき、軽油生産を誘導します。この藻では、窒素飢餓に陥った時、さまざまなcascade反応が起こり、そのcascade反応の最終段階において、軽油生産酵素遺伝子群の発現が制御されていると考えられます。最終段階における制御を更に細分化して考えると、軽油生産酵素遺伝子群を制御する転写因子の存在が想定されます。その転写因子をNitrogen-Starvation-Responsive Transcription Factor (NSR-TF)と呼ぶことにし、本研究においては、このNSR-TFを同定することが最初の課題です。 なぜならば、前述したように、窒素飢餓条件特異的に機能するCmMYB1を強制発現させた場合、窒素充足条件においてもその制御下における遺伝子の発現を上昇させることが可能だからです。NSR-TFを同定後、遺伝子工学技術を用いてNSR-TFを恒常的に発現することにより、軽油生産能を高めた藻の作出を最終的に目指しています。

 上記目的を達成させるため、現在当研究室では、
  1)P. ellipsoideaゲノム配列の決定
  2)NSR-TF の同定
  3)P. ellipsoideaにおける形質転換系の確立
などの研究を日々進めています。


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icon 本研究について

 本研究は、中央大学と株式会社デンソーが、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実施する「バイオマスエネルギー先導技術研究開発」の委託先に採択され、NEDOからの受託事業の一環として、平成21年度から平成22年度まで実施されました。 (2015〜2030年頃に実用化が期待される遺伝子組換え等品種改良技術を利用したバイオ燃料製造に利用する食料と競合しないエネルギー植物の創製」の部門での採択)
 採択されたテーマ「軽油生産能を有する単細胞緑藻の転写因子大量発現による生産性向上」は、株式会社デンソーとの共同提案です。 単細胞生物の中には、窒素が不足した状態になると多く軽油を生産する緑藻がいます。今回の研究では、窒素が不足していない状態でも軽油を連続的に蓄積する細胞を創出することで、従来の2倍の軽油生産性の実現を目標としました。

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