革新的なCO2高吸収バイオマスの利用技術の開発

icon プロジェクトの概要

 近年、化石燃料の枯渇やCO2排出による地球温暖化といった観点から、カーボンニュートラルなエネルギーとしてバイオマス燃料の利用が重要視されています。 微細藻類は高等植物と同様にCO2、光エネルギー、水を用いて光合成を行います。 その微細藻類の中には、単位面積あたりのCO2固定速度が高等植物の10倍以上のものがおり、バイオ燃料の有力な担い手と考えられます。 しかし、藻類の大量培養や回収などの技術が未熟なことから、微細藻類を用いた現状での燃料生産コストは非常に高く、商業ベースとして成り立ちません。 微細藻類バイオマスの利活用を行うには、バイオマス生産(藻類培養)から中間処理(回収、油脂抽出)を経て最終生成品製造に至るまでの各工程をできるだけ簡素なものにして、 低コスト化を実現し、さらに、抽出残渣についても有効利用を図る必要があると考えられます。 そこで、本プロジェクト研究グループでは、主に軽油生産性微細緑藻Pseudococcomyxa ellipsoideaを活用し、微細藻類バイオマス利用のトータルプロセスの開発を行っています。 この目的を実現するために、大きく分けて、

(a)微細藻類バイオマス生産および中間処理コストの削減
(b)微細藻類バイオマスの利活用の拡大とを図る開発研究
(c)微細藻類を屋外で大量培養した場合の環境への影響

の3つの観点から調査を実施しています。

               

地域活性化のためのバイオマス利用モデル図

図1.微細藻類バイオマスの地域活性化への利用


icon 中央大学の取り組み

 当研究室において研究開発を行っている単細胞微細緑藻は、2003年に淡水環境から単離されたP. ellipsoideaであり、広いpH条件下で高い増殖能力を示します。 そのため、屋外開放系で継代培養が可能です。 P.ellipsoideaは、窒素栄養欠乏に伴い、細胞内に油滴状の構造体(脂肪体)を形成し、乾燥藻体重量あたり30%もの油脂成分を蓄積する特性を有しており、その油脂成分には軽油相当(C17-C21)の炭化水素成分が1割程度含まれます。 これら炭化水素成分は、エステル化や水素添加せずに直接液体燃料として利用可能なため、燃料化のコストを大幅に削減できる可能性を有しています。 このように、P.ellipsoideaは微細藻類バイオマスを大量生産し、エネルギー・有用物質へと変換・利用していく上で、非常に優位性の高い微細藻類であると言えます。 しかしながら、窒素欠乏条件でしか油脂の蓄積を行わないこと、細胞壁が固く油脂の回収が困難なことなど、商業ベースでの利活用に不向きな性質も有しており、商業生産に利用することを困難にしています。 そこで当研究室では、この株に突然変異を導入し、より生産性の高い株へと育種していくことを目指しています。
 

icon 研究目標1 P.ellipsoidea高油脂突然変異体の分離

 油脂含量が増加した突然変異体の分離は、主に、セルソーター(fluorescence-activated cell sorting:FACS)を用いて行っています。 突然変異誘起条件、蛍光染色条件、ソーティング条件の最適化を行い、高油脂突然変異体をFACSを用いて濃縮しました。 図1は、このようにして分離したP.ellipsoidea突然変異体を蛍光試薬で染色したものです。 緑色の部分が油脂で、野生株よりも突然変異体の方が油脂を蓄積していることがわかります。

図1.高油脂突然変異体の分離高油脂突然変異体の分離

icon 研究目標2 低クロロフィル含有突然変異体の分離
 

   大量培養に適した変異体として、アンテナクロロフィル含量が減少した突然変異体の分離も行っています。 多くの微細藻類では、弱光下で効率良く光エネルギーを捕獲するためのアンテナクロロフィルを高濃度に含んでいますが、日中の強光下では、捕獲した光量子が過飽和となり、積極的に光エネルギーをロスすることで自らを光化学反応のダメージから保護しています。 すなわち、光エネルギーが光合成に使われずに捨てられていることになります。 このような藻類の性質はバイオテクノロジー利用にとっては不利な性質です。そこで、アンテナクロロフィルが減少した変異株を培養に用いることで、光エネルギー利用効率の上昇が期待できます。 突然変異処理を施したP.ellipsoideaを培養し、顕著にクロロフィル含量が減少した突然変異体を分離しました。その一例を図2に示します。 これらの突然変異体の幾つかは、大量培養条件で、野生型よりも優れた増殖速度を達成しました。
 

図2. 突然変異体のクロロフィル含有量

高油脂突然変異体の濃縮条件の検討



icon 本研究について

 本研究は、中央大学を中心とする9機関(国立大学法人京都大学、株式会社デンソー、マイクロアルジェコーポレーション株式会社、 学校法人中部大学、トヨタ自動車株式会社、株式会社豊田中央研究所、国立大学法人佐賀大学、国立大学法人お茶の水女子大学)が、 農林水産省の実施する「地域活性化のためのバイオマス開発委託事業」の委託先に採択され、農林水産省からの委託プロジェクト研究の一環として、平成22年度から実施されています。  このプロジェクトでは、P.ellipsoideaあるいは新規に分離する高油脂蓄積微細藻類を活用し、微細藻類バイオマスの高効率生産から利活用までの一連のプロセスを開発し、 地域活性化のためのバイオマス利活用モデルを構築することを目的としています。